半導体の脱グローバル化・ブーム
- 1733 Views
- 2022年12月6日
- トピックス
半導体投資家が地政学的緊張の高まりを懸念するのは間違っている。脱グローバル化とエネルギー転換は、チップ分野にとって好材料だ。
11月に発表されたInvestor Dayのプレゼンテーションによると、半導体製造機械を作っているオランダのASMLホールディング(ASML)のビジネスは活況を呈しているという。
投資家は次の下落局面で半導体株の購入を検討すべきだろう。
これは一般的に受け入れられていない意見だ。多くの投資家は、半導体セクターが供給過剰に陥っていると確信している。投資家は、パソコンやスマートフォンなどの成熟市場向けのチップ供給と、ハイパーコネクティビティを取り巻く次世代市場向けの需要を混同している。
さらに重要な点は、脱グローバリズムとエネルギー転換の掛け算の効果を見逃していることにある。
この30年の大半、欧米企業は中国や東南アジア諸国への生産能力のオフショア化に奔走してきた。
最も集中したのは半導体分野だ。2021年には台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSM)とサムスン電子の2社で世界の製造能力の7割を支配する。
関連記事 :
この戦略の愚かさは、パンデミックが沈静化し始めた2021年に明らかになった。出荷港の新型コロナ制限により、サプライチェーンに大きなボトルネックが発生した。世界中の工場がチップ不足に陥った。どこの国の政治家も、いわゆる技術主権を口にするようになった。その後、超党派の立法が行われた。
グローバリゼーションがうまくいかなくなり、脱グローバリゼーションが推進されるようになった。
米国議会は、CHIPS法およびFABS法という、国内のチップ製造のための520億ドルの新規支出に相当する法案を可決した。
さらに、ヨーロッパではCHIPS法に460億ドルを費やすことになる。韓国の議員たちは、4500億ドルの民間投資を誘致することを目指している。日本は44億ドルの補助金を設定した。台湾投資イニシアティブは、チップ製造業者のための土地、水、電力の追加確保を支援するために税額控除を行っている。また、中国の国家集積回路産業投資基金は、合計512億ドル相当の税制優遇措置を割り当てる。
マイクロチップをとにかく各自確保するために、膨大な公的資本が投入されている。しかし、ASMLのInvestor Dayのプレゼンテーションによると、新しい生産能力を持ってしても、2030年まで需要が供給を上回る可能性があるという。
これにはそれなりの理由がある。世界は急速に変化しており、半導体は将来のインフラに不可欠なものだ。
ロシアとウクライナの戦争は、エネルギーコストを爆発的に上昇させている。化石燃料の不足と環境への懸念から、世界の指導者たちはエネルギー転換を加速させようとしている。これには、風力発電や太陽光発電プロジェクトの迅速な立ち上げが含まれる。
2021年には約15%だった新車販売台数のうち、2030年には70%が電気自動車になると予想されている。EVは内燃機関自動車に比べ、半導体の使用量が2倍だ。しかし、それだけではない。
関連記事:
デジタルトランスフォーメーションで市場をリードするマクドナルド
電気自動車とそれに必要な充電インフラには、電動アクチュエーター(モーター制御に使われる)に見られる古い40nmチップから、通信ゲートウェイ(異なるネットワーク間の通信を可能にする)やインフォテインメント(情報と娯楽を組み合わせた統合的なシステム)に見られる16nmノード、そしてリアルタイム処理に用いられる高度な5nmチップまで、あらゆる種類のチップアーキテクチャが使用されている。
ここで、過去10年間のパフォーマンスがS&P500を大きく上回っているヴァンエック半導体ETF(SMH)のチャートを見てみよう。
ご覧のように、S&P500(赤線)が180%の上昇にとどまっているのに対し、SMHのパフォーマンス(黒線)は660%の上昇を示している。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのアナリストは、2030年のチップの総需要は、現在の約2倍の1兆ドルから1.3兆ドルに達すると予想している。
投資家は今後数カ月の間にチップ銘柄が反発すると考えるべきだろう。
ガートナーの研究者は、自動車、データセンター、産業用アプリケーションの成長率がそれぞれ14%、13%、12%で、この期間に最も速く成長すると考えている。成長曲線の中で最も遅れを取っているのはPCで、半導体に弱気な見方をしている投資家が根強く注目している。
弱気な声が半導体の話を歪めてしまうのも無理はない。このような話、特に騒々しい終末論的な物語が株価を動かす。
パンデミックによってPCの需要が前倒しされ、そのデバイスを動かすチップが過剰になったというのは、簡単に理解できる話だ。だが、この話しは半導体のメガトレンドを見逃している。ネットワークに接続される機器が増えれば増えるほど、チップの需要は高まる一方だ。
ASMLの経営陣は知っているのだろう。彼らはゼロ地点で、チップを作るマシンを作っている。
投資家はこれらのチップ機器メーカーに注目すべきだ。ASMLホールディング、KLA(KLAC)、ラムリサーチ(LRCX)は、10%の下落局面が買いどきだ。
投資家は長期的なチップのストーリーを完全に誤解している。マクロ経済に関する当面の懸念はあるが、この分野の見通しはかつてないほど明るい。
健闘を祈る
ジョン・D・マークマン
※ 広く一般の投資家に情報としてお届けする事を目的とした記事であり、Weiss Ratings Japanが運営する投資サービスの推奨銘柄ではありません。予めご了承下さい。