株価5ドルの株は、安くない
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- 2024年1月12日
- トピックス
年末年始はゆっくりできただろうか?
我が家は昔から、年末年始の休みにはモノポリーをする。モノポリーはアメリカでは著名なボードゲームで、家族と資産形成を学ぶのにぴったりだ。
他プレーヤーと不動産を取引し、家賃収入などを増やし、最終席にどれだけ資産が増えたかを競うゲームだ。私も含め、多くのアメリカ人がモノポリーで基本的な金融知識を学んだ。
これは本当に有益なゲームでもある。特に投資家にとっては。
モノポリーで重要なのは運と戦略だ。これは株式投資においても同じだ。戦略のない投資はギャンブルだが、どうしても投資にはリスクが存在し、運が味方しなければ資産を増やすことは難しい。
だがモノポリーにはもう一つ重要なものがある。確率だ。
モノポリーで役立つ5つの確率・数字を紹介しよう。モノポリーをプレイしたことがない人は読み飛ばしてかまわない。
- 2つのサイコロを使う場合、7が最もよく出る数字である。
- 統計的には、イリノイ通りに進出することが最も多い
- オレンジ色の3つの土地を所有することが、ゲーム終盤にかけて重要度を増す
- 鉄道を3つ保持することが、定期的に資金を集める賢いやり方だ
- どのような色の組み合わせであれ、投資リターンを最大化するには、3つのハウスを素早く所有する必要がある
モノポリーの戦略について書かれた本があるほど、このゲームの戦略は奥が深い。しかし重要なのは全ての戦略を網羅することではない。簡単な数学からいくつかの確率を理解しておくだけで、対戦相手に対して自動的に有利になる。
投資においても、基本的な確率や数字を理解しておくことは重要だ。S&P500の長期的な平均リターンを知らなければ、まっとうな投資目標、老後計画を立てることはできないだろう。
だが多くの人は決して数字に強くはない。
そこで、多くの投資家がつまづく5つの数学的誤解を紹介しよう。
その1:「低位」株と「値がさ」株の比較
みんな「安い」株が大好きだ。だが、何をもって安いと考えるかは人によって違い、大変な勘違いをしている投資家も少なくない。
多くの投資家にとって、安い株とは単に一株あたりの金額が小さいものを指す。300ドルの株と30ドルの株を見れば、30ドルの株を安いと考えるのだ。
確かに株価が安ければ、たくさんの株数を買うこともできるし、配当などちょっとした収入で買い増したりできるメリットがある。
だが、1ドルの株を1000株所有することにも、1000ドルの株を1株所有することにも、本質的な優位性はない。
そして株価の高低は企業価値を表すわけでもない。
低位株の方が相対的なボラティリティは高いかもしれないが、それが必ずしも良い投資先になるとは限らない。バークシャー・ハサウェイはクラスAとクラスB、二種類の株を発行している。個人投資家が買うのは主にクラスBで、株価は370ドルほどだ。一方、機関投資家の間で取引されるクラスAの株価は55万ドルだ。
クラスAの株価はクラスBの1500倍近くだが、この2つの価値は同じだ(バークシャーの経営に口を出したければ議決権が強いクラスAを買う必要があるが)。
株価がいくらであろうと、それ自体は何の意味もない。投資家として「価値に対して安い」株を買いたければ、業績、キャッシュフロー、簿価など、事業のファンダメンタルズに基づいて「割安」な銘柄を探す必要がある。
その2:ドル対の値動き
ある銘柄が何ドル上がったとか下がったとか言う人がよくいるが、それだけではあまり意味がないことに気づいていない。
結局のところ、20ドル株の10ポイント下落は、100ドル株の50ポイント下落に等しい。
だから私は株価の動きを取るで表現せず、パーセンテージだけに注目している。
投資家は、ドルなどの通貨に基づく価格ではなく、パーセンテージなどの比率で計算するクセをつけよう。株価の割安割高を示すPERやPBEといった指標も、比率を表している。比率で捉えることで、物事をより正確に捉えられるようになる。
例えば保有割合だ。金額ではなく、全体に占める割合で考えよう。「1つの銘柄に1万ドルも投資したら、集中しすぎだろうか?」と質問されるが、これでは答えようがない。資産全体が100万ドルあるなら、1万ドルは1%だ。分散は十分すぎるため、むしろ投資額を増やすべきだろう。しかし資産全体が3万ドルしかないのなら、話が変わる。
自分の資産全体に占める株式の割合、株式の中で各銘柄の保有割合。
これらを知ることは秩序ある分散投資の最初のステップだ。
パーセンテージで考えることで、自分のやっていることすべてを正しい文脈に置き換えることができる。
しかし、パーセンテージを使いこなしている人でも、次のような間違いを犯すことは多い。
その3:利益と損失のパーセンテージ
クイズ:株価が50%上昇し、その後すぐに50%下落した場合、プラマイゼロになるか?
直感的には、「イエス」のように思える。
だが現実は違う。
- ジェーンはXYZ株を100ドルで1株購入。
- 50%上昇して150ドル(0.5×100ドル=50ドル)。
- その後、50%下がる(0.5×150ドル=75ドル)。
つまり、50%上昇して50%下落した後、ジェーンの100ドルは75ドルになってしまっている。つまり25%の損失だ!
株価が2%上がって、2%下がって、を繰り返した時、株価は横ばいで推移しない。徐々に低下し、最終的にゼロになる。
このように直感に反するパーセンテージに惑わされないよう注意しよう。
その4:配当利回り
私は安全な投資、とくに安定した配当収入を狙った投資を専門にしているので、利回りの計算について多くの質問を受ける。
単純な配当利回りは、年間配当額を株価で割ったものだ。
今後1年間に1ドルの配当が支払われる10ドルの株は、年間利回りが10%(1ドル/10ドル=0.1または10%)である。より厳密にはこの場合「予想配当利回り」という。
他にも過去1年間の配当実績に基づく「実績配当利回り」や、直近の配当に年間の配当回数をかけた「直近配当利回り」などがある。メディアによって配当利回りが異なるのはそのためだ。
ちなみにWeiss Ratingsは「実績配当利回り」を使い、Bloombergは「直近配当利回り」を使っている。Trading Viewは「予想配当利回り」を使っている。
非常にややこしいが、すべて配当利回りだ。実績配当利回りは実績に基づいた信頼性があるが、将来の増配や減配を織り込めない。直近配当利回りは特別配当など特殊な要因でとんでもない数字が出ることがある。予想配当利回りは、どこまでいっても予想だ。
だが、あなたが配当銘柄に投資しているなら、あなたが気にするべき配当利回りは、このいずれでもない。
なぜなら、これらは全て今の株価に対する配当利回りであって、あなたにとっての配当利回りではないのだ。
コカコーラの実績配当利回りは3%ほどだが、何十年も前にコカコーラ株に投資し、ずっと持ち続けている人は度重なる増配によって、投資資金に対して毎年何十%もの配当金を受け取っている。
その人にとってコカコーラの配当利回りが3%という情報は意味をなさない。
アップルの実績配当利回りは0.5%しかない。だが10年前にアップル株に投資した人は、昨年、投資資金に対して5%程度の配当金を受け取ったはずだ。
あなたは自分が保有している銘柄の正確な配当利回りを把握しているだろうか?
実際の配当利回りはあなたの投資タイミングと、その後の株価、増配によって大きく変わる。
最後にもうひとつ、心に留めておくべきことがある。
その5:株式分割
多くの投資家が株式分割を誤解している。私の考えでは、株式分割は本質的に良いものでも悪いものでもない。企業は株価をより「値ごろ感」のあるものに見せるために、このようなことをしているだけなのだ。
彼らは最初の誤解に気づいている。つまり多くの投資家は価値ではなく、単なる価格で高い・安いを判断しているため、分割して株価を押し下げた方が喜ばれるのだ。
繰り返しになるが、株式分割で株価が半分になろうが、10分の1になろうが、本質的な価値には何の影響もしない。
最初の話に戻るが、モノポリーは素晴らしいゲームだ。慣れないうちは、単純に家賃収入が大きい物件に手を出したり、いい感じの価格で売却したり、目の前の数字によるその場しのぎでプレイしてします。
だがそれだと勝てない。資産を最大化するには、家賃収入の額ではなく利回り、ポートフォリオにおける役割、他のプレイヤーの状況や、将来手に入れられるかもしれない別の物件などと比較し、戦略的に進める必要があるのだ。
株式投資も同じなのはいうまでもない。私たちの目に飛び込んでくる数字の多くは、そこまで重要ではないどころか、ひどい誤解につながる可能性のあるものばかりだ。その数字が自分にとって何を意味するのか、よく考えて投資してほしい。
幸運を祈って。
ナイルズ・マティブ
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