17.25%の配当利回りに注意
- 1488 Views
- 2023年11月15日
- トピックス
毎月配当を支払い、しかも利回り17.25%のETFがあります。
そう言われたら、あなたはどう感じますか?
「きっと何か裏があるに違いない」
Weiss Ratingsの情報を受け取り米国株投資について学ばれている方ならそう感じる方が多いと思います。
配当利回り17.25%のETFは実際に存在し毎月のように配当を支払っています。
株価が暴落しているわけではなく、ほとんど横ばいですが、年初来+4%ほど上昇しています。
このETFは魅力的な投資先なのでしょうか?やはり、何か裏があるのでしょうか?
今日はジョン・マークマン氏による「17.25%の配当利回りに注意」をご覧ください。
リスクをほとんど負うことなく、株式のパフォーマンスを上げる方法があるかもしれない。
ニューヨークの投資顧問会社であるシンプリファイ・アセット・マネジメント(SAM)のシンプリファイ・ボラティリティ・プレミアムETF(SVOL)は、この見通しを売りにしている。
過去1年間の配当実績に基づく配当利回りは、17.25%と異常と言っていい水準だ。年初来での株価リターンは4%弱だが、極端な配当収入があるなら素晴らしい選択肢のように思える。
しかしインカム収益を求める投資家は慎重に行動すべきである。
通常ETFは特定の指数や、テーマによって運用されている。まずはこのETFが何に投資するのかを見てみよう。
The investment seeks to provide investment results, before fees and expenses, that correspond to approximately one-fifth to three-tenths the inverse (-0.2x to -0.3x) of the performance of a short-term volatility futures index while also seeking to mitigate extreme volatility. In pursuing its investment objective, the fund primarily purchases or sells futures contracts, call options, and put options on VIX futures. The fund holds cash, cash-like instruments or high-quality fixed income securities (collectively, “Collateral”).
Weiss Ratings
(日本語訳)
このETFは、短期ボラティリティ先物指数のパフォーマンスの逆数(-0.2倍から-0.3倍)の約5分の1から10分の3に相当する投資リターンを提供することを目指すと同時に、極端なボラティリティの軽減も追求します。投資目的を追求するため、ファンドは主にVIX先物に対する先物契約、コール・オプション、プット・オプションを購入または売却する。
まず、あなたがこの文章を読んで、このETFが何をしているのか、何を目指しているのかすぐに理解できなかったのであれば、SVOLへの投資を検討する必要はないと言える。
ウォーレン・バフェットもいうように、リスクとは「自分が何をやっているかわからない時」に発生するものだからだ。
要するにSVOLは市場のボラティリティ(価格変動)が低い、市場が安定していることに賭けている。
SVOLは2021年に設定された比較的新しいETFだが、SVOLが設定されるまでの10年間、株式市場はほとんどの投資家にとって非常に寛大な期間だった。金利はゼロ付近で安定し、株価は毎年のように上昇し続けていた。。
困っているのは配当投資家だ。株式市場が順調に上がり続ける中(しかもその多くは配当を出さないハイテク株が牽引していた)、配当投資家は取り残されていた。
SVOLを生み出したSAMのポートフォリオ・マネジャーは、配当投資家への解決策があると考えた。
先ほどもお伝えしたように、SVOLはボラティリティ指数(VIX指数や恐怖指数と言われる)の逆数に連動を基準に運用されている。つまり、ボラティリティ指数が低下すれば上昇し、ボラティリティ指数が上昇すれば下落するわけだ。さらにはオプション取引によって、そうした値動きからオプション収入を得ることができる。それが17.25%もの分配金利回りになっている。
実際、SAMのホームページを見ると、次のように書かれている。
We believe many traditional sources of income are failing to meet investor needs in today’s low yield environment. SVOL aims to provide an attractive income stream and source of diversification while seeking to avoid risks inherent in other income-producing asset classes.
シンプリファイ・アセット・マネジメント(SAM)
The fund’s short VIX position provides investors an optimized exposure for monetizing the premium in the VIX futures market. A modest option overlay budget is then deployed into VIX call options to help protect against adverse moves in VIX.
(日本語訳)
昨今の低利回りによって、多くの伝統的な収入源が投資家のニーズを満たせなくなっていると考えている。SVOLは、魅力的なインカムゲインを提供すると同時に、他のインカム資産に内在するリスクの回避を目指す。
当ファンドのVIXショート・ポジションは、投資家にVIX先物市場のプレミアムを収益化するための最適化されたエクスポージャーを提供する。その後、VIXの不利な動きから保護するために、VIXコール・オプションに適度なオプション・オーバーレイ予算を配分する。
要するに、SAMのポートフォリオ・マネージャーは低金利化において投資家の収入を増やすために、SVOLを開発したということだ。オプション取引を行なっているため難しく感じるが、彼らがやっていることを一言で言えば「株式市場で悲惨な出来事が起こらないことに賭ている」ということだ。投資家が合理的に行動することへの賭けである。
世界の中央銀行は、ブラック・スワン(異常事態)に直面すれば、短期金利をゼロまで引き下げることも厭わないことを何度も示してきた。
この点でゼロ金利政策(ZIRP)は、連邦準備制度理事会(FRB)を事実上、最後の保険会社であり、強力な後ろ盾とした。
2000-2023年のフェデラルファンド実効レート
ご覧の通り、米国では金融危機後の2008年12月にZIRPが始まり、2015年12月まで実施された。COVID-19の大流行を受けて、2020年3月から2022年3月にかけて金利は再びゼロになった。
こうした期間であれば、ボラティリティは低くなり、ボラティリティの安定に賭ける戦略は機能するだろう。
SVOLで得られるもの
SVOLのポートフォリオの大部分は、米国債、高品質で短期の債券、およびマネー・マーケット・ファンドのような極めて流動性の高い所得志向の金融手段で構成されている。
SVOL資産のおよそ5分の1は、ボラティリティ・インデックス(VIX)先物の売りによるボラティリティ・ヘッジに使われており、VIXコール・オプションの購入に充てられる部分はもっと少ない。コール・オプションは、買い手に資産を一定価格で一定期間購入する権利を与えるものである。
この戦略は、インカムを取り込むと同時に、ボラティリティが予想外に上昇した場合にSVOL投資口の保有者が失う可能性のある金額を制限するものでなければならない。
それが戦略で、うまくいっているようだ。
SVOLの株価は22ドルほどで年初来で4%弱の上昇している。過去1年間の配当実績に基づく配当利回りは、17.25%で、毎月配当金(分配金)を支払っている。
FRBの金利政策が落ち着くだろうという見通しから、ボラティリティが2023年中安定していることも一助となっている。
素晴らしいリターンに思えるが、果たして本当にそうだろうか?
アルマゲドンが17.25%の配当を帳消しにする理由
(※アルマゲドン=世界の最終の日に起こる善悪諸勢力の終局の決戦場を意味する。転じて、世界の終わりを感じさせるような大きな事件、出来事を示唆する)
2018年2月5日にアルマゲドンが起こった。トレーダーがマクロ経済情勢の悪化により、株式市場の上昇が崩れることを懸念して発生し、VIXは10から37.32まで急上昇したのだ。
ボラティリティ売りに特化した上場投資信託がショートスクイズに巻き込まれ、S&P500種株価指数はその後2週間で10%下落した。
ボラティリティが安定することに賭けるETFのベロシティシェアーズ・インバースVIXショートタームノートは、19億ドルもの資産を持っていたが、アルマゲドンが起こった日、ごく短い期間の間に、その資産価値は6300万ドルまで暴落した。翌日、このETFだけでなく、6つのショート・ボラティリティ・ファンド(ボラティリティが小さい時にリターンが狙えるファンド)は取引を開始しなかった。
商品の性質が破滅を招いたのだ。
ショート・ボラティリティ・ファンドはボラティリティが低い、つまり長期的に安定して上昇することに賭けている。これは堅実なコンセプトのように思えるし、米国株式市場の長期の上昇力を見れば素晴らしいことのように感じる。だが、投資家にとっては残念なことだが、これらの商品は極めて短期志向である。
SVOLは、市場の不安を反映するように設計された数値であるVIXの日次リターンの何分の一かを模倣しようとマネジャーが試みるため、毎日決済される。2018年2月5日のアルマゲドンは、わずか1日で全てを吹き飛ばした。
投資家は、現在の17%を超える利回りが何を意味するのかを理解する必要がある。確かに魅力的だが、それはリターンに見合ったものだろうか?
世の中には様々な金融商品がある。しかしその中で、現実的に投資対象としてふさわしいものはごく僅かだ。
また次回。
ジョン・D・マークマン
※ 広く一般の投資家に情報としてお届けする事を目的とした記事であり、Weiss Ratings Japanが運営する投資サービスの推奨銘柄ではありません。予めご了承下さい。