偽物のイノベーションを回避する方法
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- 2024年2月20日
- トピックス
テクノロジー投資に関して、多くの投資家は「この先何が起こるのか?」「このイノベーションによって未来はどうなるのか?」ばかりに注目する。
しかし実際には、「何を避けるべきか」を知り、偽物のイノベーションに騙されないようすることの方がよっぽど重要だ。
メディアを賑わすイノベーションが、必ずしも投資リターンを生むとは限らない。
さっそく本題に入ろう。
イノベーションは難しい。
「これはイノベーションだ!」という投資銀行や企業のマーケティングに騙されてはいけない。急激な変化を起こすには先見の明が必要だ。イノベーションを起こすには現状の弱いところを認識し、新製品を市場に投入するために全力を尽くす覚悟が必要になる。
ほとんどの大企業には、このような文化はない。古い企業の経営幹部は、たとえ存亡の危機に直面しても、破壊的イノベーションに抵抗する。
投資家は注意深く選ばなければならない。合理的な長期トレンドを見極め、最も勝つ見込みが高そうなビジネスを見つける必要がある。
メアリー・バーラ氏の物語は、ドキュメンタリー映画になるかもしれない。バーラ氏は1980年、18歳の学生の工場作業員としてゼネラル・モーターズ(GM)で働き始めた。
電気工学の学位を取得して卒業した後、GMに30年間務めて出世街道を歩んできた。 2008年にグローバル製造エンジニアリング担当副社長に就任。それからわずか1年後には、グローバル人事担当副社長に就任した。その2年後にはグローバル製品開発担当副社長に就任し、自動車プラットフォームの設計と数の決定を監督した。
そして2014年1月、ついにバーラ氏がGMのCEOに就任した。
バーラ氏がGMの工場作業員からの生え抜きでCEOに上り詰めたことは驚くべきことで、刺激的だ。しかし残念なことに、彼女の統治下でGMは低迷している。
バーラ氏がグローバル製造エンジニアリングの仕事に落ち着いた頃、GMの没落が始まった。悲劇の始まりは、自動車業界にイーロン・マスクというイノベーターがやってきたことだ。
マスク氏は2008年、電気自動車(EV)で自動車業界に乗り出すとう妙案を思いついた。しかし当時はほとんど夢物語で、自動車業界ではジョークのネタにされていた。
バーラ氏を含む自動車業界幹部は「誰もEVなんて欲しがらない」と語っていた。EVはパワー不足だし、煩わしく、トラックには不向きだった。北米の自動車製造業は、製造がより簡単で、収益性が高いトラック部門を重視していたため、既存の自動車業界がEVを重視しなかったのも無理はない。
だが、100年の歴史を持つ自動車産業にとっての誤算は、マスク氏が作ったEVがパワー不足ではなく、しかも多くの人が欲しがったことだった。
彼の最初のEVは、まるでロータスのスーパーカーのようだった。2番目のモデルSは2012年に発売された。『MotorTrend』誌の2013年「カー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。5台目となる小型SUVのモデルYは、2020年に発売してからわずか3年で世界で最も売れている車に躍り出た。
マスクは、高速で、運転するのが楽しいEVで、自動車分野全体を破壊した。製造コストも安い。
そして、車内のデザインは細部までこだわっており、環境に優しい車を求める消費者の欲求を開拓して長期トレンドを生み出すという実に大きなアイデアを持っていた。
EVは従来のエンジン社と比べても格段に効率的に製造されている。EVに必要なのは4つの車輪とバッテリーパック、モーターだけだ。エンジンやトランスミッション、その他何百もの機械部品は必要ない。それにより、EVの製造が容易になり、人件費を削減することができる。
テスラの躍進を見たバーラ氏は2021年、EVに乗り出すことを決めた。GMが110年かけて培った歴史を、EVによって破壊することにしたのだ。
彼女は、GAMが2025年までに世界最大のEV企業になり、2030年までに全車両をEVにすると語った。当時のGMの現状を考えれば、あまりに野心的な目標だ。
しかし投資家たちはバーラ氏の野心的な目標を受け入れた。投資アナリストはGM株を推奨銘柄リストに加え、バイデン大統領はEVシフトを宣言したバーラ氏を称賛した。
当時はまだテスラに対しても懐疑的な意見があり、EV化が進むとしてもそれはテスラのような新興企業ではなく、自動車の作り方と売り方を熟知した古くからある自動車企業が先導すると考えられていた。
しかし、GMのEV参入は大失敗だった。EVの普及は世界的に加速しているが、GMは生産工場、バッテリー向上の計画を縮小している。
モデルYに対抗するためにデザインされたスタイリッシュなSUV、キャデラック・リリックは、2023年にはわずか9000台しか売れなかった。シボレー・ボルトも火災事件を引き起こし低迷中だ。
数十億ドルを投資し、イノベーションを大胆に約束したバーラ氏の夢は、今や恐怖、不確実性、疑念を生み出している。彼女は現在、EVが主力になるにはまだ時間がかかると、弱気な主張と言い訳を繰り返している。
GMのEV参入の失敗は、大切な教訓を与えてくれた。イノベーションは必ず成功するわけではないし、素晴らしいストーリーが投資リターンを生むわけでもないということだ。
こうした例は探せばいくらでもある。
家具をオンラインで販売しているウェイウェアは業界にイノベーションを起こすと約束し、家具の購買体験を根底から覆すサービスを提供した。
ウェイウェアは煩雑だった家具の購入をオンラインで完結させ、さらに返金保証までつけた。消費者は家具売り場には並びきらない大量の家具を検討し、気に入ったものがあればすぐに購入することができる。部屋に合わなければ?返品すればいいだけだ。
素晴らしいアイデアに思える。まさにイノベーションだ。投資家はアマゾンが人々の購買体験を変えたように、その企業によって家具の購買体験が覆ると信じた。
しかし設立して20年以上経つが、このイノベーションはほとんど利益を生まず、投資家を豊かにすることもなかった。
私は月刊パワーエリート最新号で、こうした偽物のイノベーションにいくつか言及した上で、本物のイノベーションを実現していると考える2つの企業を新しく推奨した。
もしあなたがイノベーティブな技術やサービスを提供したり、魅力的な成長ストーリーを持った企業に投資したくなったら、一度立ち止まって欲しい。
2000年代初頭のドットコムバブルの時、イノベーティブな技術、魅力的なストーリーを持って上場、投資家を熱狂させたドットコム銘柄たちの多くは、バブル崩壊とともに消えていった。
生き残ったのは、アマゾンなどごく一部の企業だけだ。彼らは本物のイノベーションを起こしたが、大半は偽物だった。
いうまでもないが、AIに関するストーリーはどれも魅力的で、イノベーティブなサービスがたくさん登場し、投資家を熱狂させている。この中で本物のイノベーションが一体どれだけあるだろうか。
「AIは違う、AIそのものが本物のイノベーションだ」と言うかもしれないが、ドットコムバブルの時も誰もが「インターネット違う、これは本物のイノベーションだ」と言っていた。
確かにインターネットは本物のイノベーションだった。だが、ドットコム銘柄の多くは偽物だった。
AIも同じだ。AIは間違いなく本物のイノベーションだが、AIサービス、AI関連企業の中には偽物が混ざっている。
私が本物のイノベーションだと認めた企業が知りたければ、月刊パワーエリートの最新号と、ポートフォリオ表を見て欲しい。
また次回。
ジョン・D・マークマン
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