AIはベテランクリエイターの仕事を奪ったのか
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- 2024年3月6日
- トピックス
先月、OpenAIが発表した新しい生成AIツール「Sora」が大きな波紋を呼びました。
テキスト、画像に続き、動画まで生成AIが高クオリティなものを生み出すようになり、より多くの仕事がAIによって奪われる可能性が出てきたのです。インターネット上ではCGクリエイターが「失業を覚悟した」などと投稿しています。
急速に進化するAIが次々と人間の仕事を奪う。これはすでに現実に起こっていることで、2023年5月には1ヶ月で3900人が失業し、失業理由として7番目に多いものになったという報告もあります。
しかしこの動きはネガティブであると同時に、無数の投資チャンスを生み出すものでもあります。
今回はWeiss Ratingsの投資アナリストでテクノロジー投資の専門家、ジョン・マークマン氏による分析をお届けします。
AIが人間の仕事を奪う未来の先に、一体どんな投資チャンスがあるのか、ご覧ください。
タイラー・ペリー(米国の劇作家、脚本家、俳優、映画監督、映画プロデューサー)はアトランタで10億ドル規模の映画製作会社を経営している。
彼は8億ドルもの大金を賭けスタジオ拡張計画を進めていたが、先週、計画を白紙に戻した。シンプルなテキストからクリエイティブな映像を作り出す生成AIモデル「Sora」を見たことがその理由だ。
「Sora」を開発したのは2023年12月にChatGPTを世に送り出し、一躍脚光を浴びたOpenAIだ。
ChatGPTは、何千ものエヌビディア(NVDA)のGPU(半導体)とソフトウェアを使い、単純なテキスト入力に対し、ある時は美しい詩を返し、ある時は友人のように会話し、ある時はどんな辞書や学者よりも豊富な知識を与えてくれる。さらにある時は、新しいソフトウェアコードを出力し、これまで専門スキルだとされていたプログラミングをインターネットに接続する全人類が活用できるものにした。
これらはChatGPTが登場する瞬間まで、ほとんどの人が何十年も先のことだと考えていた技術革新だった。
Soraはビデオに生成AIを導入し、さらに印象的なものにしている。
タイラー・ペリーは10作の脚本・監督・製作を手がけ、公式興行収入で数億ドルを稼ぎ、億万長者にもなった。
ペリーは成功をおさめ、アトランタにある330エーカーのスタジオを大きく拡張しようと計画していた。このプロジェクトは、8億ドルをかけて12のサウンドステージを追加するものだった。しかし先週、Soraを見てこの計画を白紙にした。
Soraは、シンプルなテキストを映画で使えるクリエイティブな映像に変えることができる。
ペリーはSoraを見て「自分の目を疑った」とハリウッド・レポーター紙に説明している。撮影のためにロケ地を巡ったり、精巧な音響装置を作ったりすることは不要になるだろう。Soraは、コロラドのスキーリゾートのシーンを生成したり、月面のトリッキーなショットを完璧に撮影したりできる。シンプルなテスト・プロンプトだけで・・・。
あなたもAIの急激な進化に驚いているかもしれない。
AIの進化がこれほど速いことには、明確な理由がある。Soraは必要な処理の多くをすでにある別のソフトウェアを使うことで、ソフトウェア開発の最大の部分を省いている。
コンピューターグラフィックスが映画に登場したのは、写実的な体験をデジタルで再現する方法をエンジニアが発見したときだった。現実のシーンを作り出すには、物理学が必要だ。各シーンの物理学はソフトウェア・エンジニアによって作成され、そのソフトウェアはUnreal(アンリアル)のようなエンジン上で使えるようになる。
つまり誰かが物理学に基づいた素晴らしいソフトウェアを開発すれば、誰もがそれを自由に活用し、映像を作り出せるということだ。
要するに、Soraはソフトウェア・エンジニアがゼロから新しいソフトウェアを書くことをほとんど必要とせずに、既存のものをうまく組み合わせることで、驚くほど優れたアウトプットを可能にした。
AIの素晴らしい点は、それ自体が素晴らしくなり続ける点だ。素晴らしいソフトウェアはさらに素晴らしいソフトウェアになり、利用者のフィードバックを受けてさらに素晴らしいものに進化していく。その過程で高度なエンジニアリングは、意外なことにあまり必要ではない。基盤となるシステムと、大量の利用者がいれば、生産性を加速度的に高めることができる。
この生産性の加速度的な向上こそ、多くの人が見逃している投資機会だ。
「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる、世界で最も価値のある株式公開企業となった巨大なテクノロジー・プラットフォームは何千人ものソフトウェア・エンジニアを雇用している。AIはエンジニアの必要性を劇的に減らし、素晴らしい生産性の向上につながる。
この生産性向上をビッグテックだけでなく、他の企業にももたらす存在がある。アクセンチュア(ACN)だ。
アイルランドのダブリンに本社を置く同社は、世界120カ国以上で9000社の顧客にサービスを提供する、世界有数のプロフェッショナル・サービス企業だ。同社は、デジタル・トランスフォーメーション、クラウド・セキュリティ、インタラクティブ・サービス、戦略コンサルティングの分野で多大な専門性を築いてきた。
ジュリー・スウィート最高経営責任者(CEO)は12月、第1四半期の新規予約が前年同期比14%増の184億ドルに増加したことを明らかにした。
同時期のコンサルティング料は86億ドルで、事業の47%を占めた。
AIライトハウス・プログラムという興味深い取り組みがある。これはサービスナウ(ServiceNow、NOW)とエヌビディアとアクセンチュアによるジョイントベンチャーである。このプロジェクトは2023年10月に開始され、サービスナウの自動化プラットフォーム、エヌビディアのスーパーコンピューティング、アクセンチュアのデジタル・トランスフォーメーションの専門知識を組み合わせ、企業の生成 AI 機能の開発と導入を迅速に進めることを目的としたプログラムだ。
AIライトハウス・プログラムは、創薬、カスタマーサービス、ソフトウェア開発者向けのインテリジェント・レコメンデーション、その他のアプリケーションなどのプロジェクトの生産性を向上させるために、企業がカスタム生成AIを開発するのを支援する。つまり、企業がより少ない従業員でより多くの仕事をこなし、利益を増やすことを支援しているのだ。
タイラー・ペリーが生成AIの可能性を見出し、巨大スタジオの拡張計画を取りやめたのは正しい判断だろう。生成AIは映画撮影用の大規模セットはおろか、物理的な世界の大部分を廃れさせようとしている。
タイラーがスタジオ拡張計画を辞めたことで、生成AIがとうとうクリエイティブ分野の仕事を奪い出したと不安に思うかもしれない。確かにそうした側面もあるが、私が注目したいのは真逆だ。タイラーはAIにより、8億ドルものスタジオとそこで働く大量のスタッフを必要とせず、より低コストで、迅速に素晴らしい映像を作り出すことができる。つまり、タイラーの仕事の生産性と収益性をより高いものにするだろう。
投資家はこのチャンスに気づく必要がある。企業は、より少ない従業員でより多くのことを行えるようになる。 AIの生産性革命は目に見えないところに隠れている。
今はエヌビディアをはじめとするAIに直接関係する企業への投資が集中しているが、生産性の向上はありとあらゆる分野に広がり、投資チャンスを生むだろう。AIとは縁もゆかりもないと思われていた企業がAIによって生産性を向上させ、AI企業顔負けの利益成長を見せる事例が出てくるかもしれない。
アクセンチュアはファシリテーターであり、そのサービスへの需要は増えていくだろう。
健闘を祈って。
ジョン・D・マークマン
※ 広く一般の投資家に情報としてお届けする事を目的とした記事であり、Weiss Ratings Japanが運営する投資サービスの推奨銘柄ではありません。予めご了承下さい。