イギリスの金融危機を懸念すべき理由
- 1650 Views
- 2022年10月24日
- トピックス
金融界は危機的状況にある。
今回も責任は政治家と銀行にあるが、悲しいかな、大きな代償を払うのは投資家だ。
危機の引き金となったのは9月23日、英国の新年度予算によって英国国債が暴落し、年金運用会社が資産売却を強いられるという悪循環に陥ったことだ。
世界中の投資家は伝染を心配する必要がある。
詳しくご説明したい。
英国債は、元々金色のフォルダーに入っていたことから「ギルト」と呼ばれ、1694年以来、その安全性から世界中の金融関係者の間で崇められてきた。ギルトは英国政府の借用証書であり、歴史的に見ても世界で最も安定した債券だ。
2008年、米国のサブプライムローン問題により、金融界の安定は揺らいだ。世界中の年金管理者は、国際的な銀行家と金融の錬金術である担保付ローン債務(CLO)に騙されていた。CLOは、レバレッジドローンの取引を取得し、安全に管理するために作られた証券だ。
関連記事:
CLOは、何百万人もの信用度の低い借り手が次々と住宅ローンを滞納し始めたことで破綻した。 金融危機は、世界中の年金基金や投資ファンドのマネージャーが、ごく少数の買い手にポジションを売却するために競い合ったことで発生した。
米国の中央銀行に当たる、英国のイングランド銀行(BoE)は、最終的に貸出金利をゼロ近辺まで引き下げた。また、BoEは流動性を高めるために猛烈に債券を買い始めた。
ゼロ金利政策の予期せぬ結果で、英国の年金運用者は窮地に立たされた。ギルトは、退職者への将来の支払いを満たすのに十分な利子収入を得ることができなかった。そこで2011年に誕生したのが、ライアビリティー・ドリブン・インベストメント(LDI、債務主導投資)だ。 LDIによって、年金基金の運用者は、株式や高利回り債券、特にCLOなど、よりリスクの高い投資を行うことができるようになり、年金運用担当者は一斉に飛びついた。
低金利が株式のバリュエーションを押し上げ、レバレッジドLDIポートフォリオは堅調に推移した。2020年の世界的なパンデミックにより、BoEを含む中央銀行がゼロ金利政策を倍加させたため、こうした傾向はさらに強まった。
ロイターのレポートによると、LDIへの投資は2011年の4000億ポンドから2021年には3倍以上の1.6兆ポンドに増加したという。
すべては2022年に変わった。インフレ率は過去40年間で最も高い水準に急騰した。
ロシアがウクライナに侵攻し、エネルギーや食料の価格上昇を招いた。ロシアは欧州の大部分に天然ガスを供給しており、家庭の暖房や工場の電力に利用されている。
ウクライナは小麦、大麦、トウモロコシ、ヒマワリ油の重要な供給国だ。中国のゼロコロナ政策も、世界のサプライチェーンを麻痺させた。インフレは、多すぎる資金が少なすぎる資産を追いかけることによって引き起こされる。
BoEは2022年に入ってから主要な貸出金利を引き上げ続けている。9月には2008年以来保有している債券の削減を開始したが、英国の金利が急速に上昇したため、金融市場に亀裂が生じ始めた。
保守党新政権が最初の予算を発表した9月下旬、ギルトはすでに45%安となっていた。
その金融計画は、減税と補助金を組み合わせた成長促進策だった。法人税率や給与税の引き上げを撤回し、15万ポンド以上の所得者の税率を引き下げた。
また、エネルギー価格の凍結のために500億ドルを計上し、その全額を新たな負債で賄うという条項もあった。
トレーダーはすぐさま否定的な反応を示し、 30年物ギルトは暴落した。ギルトの価格と反比例して動く利回りは、2020年3月以来の高値となる5.15%まで急上昇した。
そしてギルトが暴落すると、年金基金の運用者にLDIのマージンコールが相次ぎ、その結果、資本要件を満たすためにギルトを売るという悪循環に陥り、さらに弱体化し、さらなるマージンコールにつながった。フィナンシャル・タイムズは、9月23日には30年物ギルトに全く入札がない時間帯があったと報じた。
BoEが最終的に介入し、毎日50億ポンドのギルト債買い入れを行い、債券を下支えると表明したが、これで市場の弱点が露呈してしまった。
ギルト危機が米国のサブプライム問題に似ていると懸念されるのは当然だろう。
保守的なポートフォリオが、高度に複雑でレバレッジの効いたデリバティブに汚染されてしまったのだ。銀行は、年金基金管理者に、担保要件を満たすために流動資産を売却することを強いるだろう。 その中には優良な株式も含まれることになる。
政治家は、特に自分自身の行動がもたらす影響に気づかないものだ。
教訓:デリバティブに端を発した危機が地域的に発生することはほとんどなく、また資産クラスに限定されることもない。世界の金融はつながっている。これは、世界中の投資家にとって大きな問題だ。
ギルトが落ち着くまでは、株式、債券、その他のリスク資産の下落が予想される。
健闘を祈る。
ジョン・D・マークマン
※ 広く一般の投資家に情報としてお届けする事を目的とした記事であり、Weiss Ratings Japanが運営する投資サービスの推奨銘柄ではありません。予めご了承下さい。